田中淳夫

来年5月にイタリア・ミラノで開催される国際博覧会。テーマは「食」だ。日本もその場を通じて「和食」を大いに広めたいところだ。ところが、日本館のレストランで使用する国産の水産・畜産物の食材の多くが、EUの食品の安全規制に触れて持ち込めないそうである。たとえばフグや、細かな規制のある国産肉類、乳製品、そしてカツオ節だ。 とくに問題となるのは、カツオ節だろう。実はカツオの切り身をいぶす製造過程でタールや焦げの部分が発生し付着するが、そこに発がん性物質「ベンゾピレン」が生成されるからだという。その含有量がEUの基準を超える点が問題視されているのだ。また、乾燥・熟成にカビを使う点も、カビ毒の恐れを指摘するとも言われている。 カツオ節は自然界の材料からつくられる。カツオはもちろんカビ菌も、いぶす煙の元の木材も自然物である。自然なんだから安全なはずという思いを持つ人もいるだろうが、実は自然界で危険物質が生成されるケースは意外と多い。毒蛇や毒キノコなどの毒物だってその生き物自身が作り出すものだ。また無農薬野菜では、野菜そのものが天然性農薬様物質を生成するという研究も出ている。それで我が身をかじる虫を追い払うのだという。 日本政府は、万博で使用する分に限って持ち込みを認めてほしいとEUに要請している。安全だと言いつつ規制そのものの撤廃を主張するわけではないのである。 ところで2015年夏に、フランスの大西洋沿岸のブルターニュ地方のコンカルノーにカツオ節工場を建てる計画が進んでいる。鹿児島県枕崎市の枕崎水産加工業協同組合などが出資して建設するのだ。原料のカツオはインド洋で調達し、技術指導も日本がして製造するという。つまり政府の弱腰に、民間がしびれを切らして、海外進出を決めたのである。ある意味、これも日本の産業空洞化といえるかもしれない。そのうち和食の素材は全部海外調達になる?